親の借金は相続放棄で回避できる?返済義務があるかや代わりに誰が払うのかも解説

相続放棄

相続に関わるトラブルでよく耳にするのは、親の死後に借金が発覚することです。

相続は財産だけでなく借金などの負債まで引き継いでしまうため、借金の負担をどうすれば回避できるかお悩みの方は少なくありません。

親の借金を回避する方法として「相続放棄」が挙げられますが、相続放棄は借金だけでなく親の財産全てを放棄する選択肢でもあります。

また、放棄した借金は他の相続人に引き継がれる可能性があるため、トラブルを避けるためにも事前の相談や財産調査が重要です。

本記事では、相続放棄の手続きやそれに伴うデメリット、他の対処法についても詳しく解説します。

親の借金に関する返済義務や回避方法について知りたい方は、ぜひご参考にしてください。

亡くなった親の借金返済義務は子どもに相続される

相続の対象には、故人の財産だけでなく借金などの負債も含まれます。

そのため、親が借金を遺して亡くなると、子どもたちはその返済義務を負うことになるのが一般的です。

ただし、相続放棄や限定承認などの手続きをふんでこの責任を回避する方法も存在します。

相続放棄の手続きは負債の引き継ぎを回避できる反面、プラスの財産も放棄することになるため慎重な判断が求められます。

限定承認を選択すると、プラスの財産の範囲内でのみマイナスの財産を相続することも可能です。

なお、相続人が複数人いる際には、借金の返済義務は相続人全員に及びます。

たとえば、100万円の借金がある人が死亡して、配偶者と子どもが2人いる場合、配偶者が50万円を、子どもたちがそれぞれ25万円を負担することになります。

親の借金は相続放棄で回避できる

親が多額の借金を抱えて亡くなった場合、相続人にとっては重大な負担となります。しかし、相続放棄をおこなうことで借金の返済義務から逃れるという選択肢もあります。

ただ、覚えておかなければならないのは、相続放棄は負債も含めた全ての遺産を放棄することを意味するということです。

相続放棄によって借金返済の義務から解放される一方で、故人の財産を受け取ることもできなくなります。

相続放棄は法的なアドバイスが必要なパターンが多いため、専門家の助言を求めることをおすすめします。

相続放棄をすると全ての遺産を放棄することになる

相続放棄をおこなうことで、故人が遺した借金などの負債を引き継ぐ責任から逃れることができます。

ただし、相続放棄によって財産も含めた全ての遺産を放棄することになるため、全ての財産を把握したうえで検討するべきでしょう。

故人の財産が借金を上回っているケースでは、相続放棄によってせっかくの財産を受け取れなくなってしまいます。

また、プラスの財産の範囲内でのみマイナスの財産を相続する「限定承認」という選択肢もあります。

限定承認を選択することで負債を引き継ぐことは回避できますが、相続放棄と比べて手続きが複雑であり、全ての相続人の同意が必要です。

相続放棄は「相続を知った日から3カ月以内」の期限に注意

相続放棄の手続きは、相続の開始を知った日から3カ月以内におこなう必要があります。

この期間を「熟慮期間」と呼び、期限を過ぎると相続放棄はできなくなり、全ての遺産を引き継ぐことになるため迅速な行動が求められます。

なお、相続を知った日から3カ月以内に必要書類を揃えて家庭裁判所へ提出できれば、たとえ手続き完了までに期限が過ぎてしまっても問題ありません。

相続放棄が間に合わない場合は熟慮期間伸長を

相続放棄の期限内に手続きが間に合わない場合は、3カ月間の熟慮期間を伸長する申請もできます。

申請が認められると、相続放棄の期限を延長して適切な判断を下すための時間を確保できます。

熟慮期間の伸長は合理的な理由が必要になりますが、財産調査に時間がかかる時や相続に関する情報が不足している時に有効です。

親の借金を相続放棄する際の手続きの流れ

親に多額の借金があり、相続放棄を検討する際には以下の流れで手続きをおこないます。

  1. 相続の開始を知った日から3カ月以内に家庭裁判所に相続放棄の申述をおこなう。
  2. 家庭裁判所から相続放棄の受理通知を受け取る。
  3. 受理通知を債権者に提示し、返済義務からの解放を確認する。

相続放棄した親の借金は代わりに誰が払う?

相続放棄は、故人の遺した財産と負債を含む遺産の全てを放棄する法的手続きです。この手続きをおこなうことで、相続人は故人の借金返済義務から逃れることができます。

しかし、相続放棄をしても借金が消えるわけではなく、たとえば子どもが相続放棄をおこなうと親の借金は法的に次の相続人に移行するのです。

以下では、相続放棄による相続権の移行や相続人全員が相続放棄をしたケースについて解説します。

相続放棄はどこまで続く?

相続放棄の手続きをおこなって承認された場合、申請者は法的に「初めから相続人ではなかった」とみなされ、相続権は次の順位の相続人に移ります。

たとえば子どもが相続放棄をしたパターンでは、代襲相続人として相続権を得るのは、その子の子(被相続人の孫)です。相続の順位は以下のとおりです。

  • 常に相続人:配偶者
  • 第1順位:子、孫などの直系卑属
  • 第2順位:親、祖父母などの直系尊属
  • 第3順位:兄弟姉妹

第1順位の相続人全員が相続放棄をすると、相続権は第2順位の相続人に移り、第2順位の相続人も相続放棄をすると、次の順位へ移るということになります。

相続人全員が相続放棄するとどうなる?

相続する財産の状況によっては、設定された相続人全員が相続放棄をするという事態も考えられます。

その場合、遺された財産は国庫に帰属することになります。ただし、国庫に帰属するまでには以下のような手続きが必要です。

  1. 相続財産管理人が選任される
  2. 相続人の捜索がおこなわれる
  3. 被相続人の債務の清算と相続財産管理人への報酬付与がおこなわれる
  4. 残りの財産が国庫に納められる

相続財産管理人が選任されるまで遺産の管理義務が課されるのが、相続人です。

この管理義務によって、相続人は相続財産を自分の財産と同じように管理することが認められます。

ただし、適切な管理を怠ると、債権者による債権回収ができなかったり受遺者に財産が渡らなかったりといった損害が出る恐れがあります。

親の借金を相続放棄するデメリットはある?

親が亡くなった際に遺された借金は、相続の一環として子どもに引き継がれるリスクがあります。

財産がなく多額の借金だけが遺された状況では、相続放棄は魅力的な選択肢に思えるかもしれません。

しかし、相続放棄にはデメリットも存在することを忘れてはいけません。以下では、相続放棄によって考えられるデメリットについて解説します。

相続財産調査をしないと損をする可能性がある

相続放棄の手続きをおこなうと、故人の借金だけでなく財産も一切相続できなくなります。

したがって、相続人も把握していなかった資産を故人が持っていたケースでは、その利益を得る機会を失うことになるのです。

相続財産としては、どうしても現金に目がいってしまいがちです。しかし、不動産や株式のように、価値を見落とすと相続放棄による損失が生じる資産も数多くあります。

また、相続放棄をおこなうことで故人の遺した財産の全体像を知る機会も失われるため、故人が隠していた貴重な資産を見逃すリスクがあります。

相続放棄したことを他の相続人に知らせる必要がある

相続放棄をおこなうと、相続権は次の順位の相続人に移ります。つまり、他の相続人が突然、予期せぬ借金を背負うことになる恐れもあるのです。

したがって、相続放棄をおこなう際には、他の相続人にその旨を通知することが望ましいでしょう。

あらかじめ通知しておくことで、他の相続人が適切な対応を取るための時間を確保できます。また、相続放棄による親族間のトラブルを避けるためにも通知は不可欠です。

特に、遠方に在住していて相続人間で連絡が取りにくい場合や関係が希薄な場合、相続放棄の通知は重要性を増します。

親の借金を相続放棄するなら「単純承認」に注意

相続放棄を考える際に注意しなければならないのが、「単純承認」とみなされる行為です。

単純承認とは、被相続人の権利義務を全て承継することを意味し、単純承認とみなされる行為が認められると相続放棄ができなくなるのです。

以下では、単純承認とみなされる行為について解説します。

単純承認とみなされる行為

単純承認は、特に相続人の意思表示がなくても特定の行為によって認められます。

以下のような行為は、被相続人の財産を無条件で全て引き継ぐとみなされてしまうため、注意が必要です。

  • 熟慮期間内に相続放棄をおこなわなかった
  • 相続財産を使用した
  • 相続財産を処分した
  • 相続財産を隠匿した

3カ月間の熟慮期間中に相続放棄の手続きをおこなわないと、単純承認とみなされて相続放棄ができなくなります。

その他にも、相続財産を使用したり、被相続人の不動産を処分したり、相続財産を隠したりすると単純承認とみなされます。

なお、基本的に被相続人の葬儀費用に遺産を使用したり、遺産から被相続人の債務の支払いをおこなったりすることは単純承認にはあたりませんが、ケースによっては異なる可能性もありますので、専門家に確認しておこなうことが良いでしょう。

親の借金額がわからない場合の調べ方

相続人の多くは、被相続人である親の借金額を把握していません。

しかし、相続手続きにおいて借金額を把握しておくことは非常に重要です。特に、相続放棄を検討する際には借金の全容を把握する必要があります。

以下では、親の借金の詳細が不明な場合に情報を得る方法を紹介します。

銀行から借金がある場合

銀行からの借金額を調べる際に、まず考えられるのは故人の銀行取引記録や通帳の確認です。ローンの返済履歴や残高に関しては、これらの記録から把握することができます。

また、これだけでは不十分なケースで有効な手段となるのが、以下のような信用情報機関への開示請求です。

  • シー・アイ・シー(CIC)
  • 日本信用情報機構(JICC)
  • 全国銀行個人信用情報センター(KSC)

信用情報機関では、故人の借金の残高や返済状況を詳細に知ることができます。上記に挙げた主要な信用情報機関に開示請求をおこなうことで、故人の借金情報が得られます。

なお、この開示請求をおこなうためには相続人としての立場を証明するための書類が必須です。

消費者金融から借金がある場合

被相続人が消費者金融から借金をしていた場合も、銀行からの借金と同様に信用情報機関への開示請求が有効です。

消費者金融は日本信用情報機構(JICC)に情報を登録していることが多いため、JICCへの開示請求が推奨されます。

開示請求をおこなうことで、故人がどの消費者金融からどれだけの借金をしていたか、その返済状況はどうだったかといった情報が得られます。

また、故人の自宅内を調査することも有効な手段です。

自宅内に契約書・取引明細書・督促状など、借金に関連する書類が残されていれば、借金の存在や詳細な額、返済状況を把握できるでしょう。

相続した親の借金が支払えない時の対処法

相続によって親の借金を引き継いでしまったものの、その返済が困難な状況に直面することがあります。

相続した借金が支払えない時の対処法として挙げられるのは、自己破産・任意整理・個人再生の3つです。以下では、それぞれの対処法について解説します。

自己破産

自己破産は、借金を負ってしまった本人に支払い能力が全くない場合に選択する方法です。自己破産の手続きをおこなうことで借金の返済義務が免除されますが、一定の財産を失うことになります。

自己破産を選択する際には裁判所に申立てをおこない、法的な手続きを進めなければなりません。

自己破産が承認されると新たなスタートを切ることができますが、信用情報に影響が出る点には注意が必要です。

任意整理

任意整理とは、債権者との交渉によって将来の利息をカットしたり、返済計画を見直したりする方法です。

この手続きを選択することで、月々の返済額を減らすことができるようになります。

任意整理の特徴は、整理したい債務を選択できる点です。

つまり、親や友人に借りている借金は引き続き返済したいという時には、当該債務を任意整理の対象外にすることができます。

ただし、元本は減額されないため、利息の減少分だけで返済計画を立て直すことになります。

個人再生

個人再生とは、借金の総額を大幅に減額できる手続きです。個人再生を選択すると、借金を一定の割合まで減額して遺った借金については分割で返済していきます。

個人再生なら住宅ローンを残したまま他の債務の減額を図ることができますが、手続きは複雑であるため専門家のサポートが必要になるケースも少なくありません。

また、個人再生手続き中に個人間で返済をおこなうことは禁止されているため注意が必要です。

さいごに

相続の際に親が遺した借金を引き継ぐことになっても、相続放棄をおこなうことでその返済義務から逃れることができます。

相続放棄は、故人の財産だけでなく負債も一切引き継がないという選択です。相続放棄をおこなうと全ての財産を一切受け取れなくなるため、財産と借金を総合的に考慮した上での決断が必要です。

本記事では、相続放棄の手続きやそれに伴うデメリット、相続してしまった借金が返済できない場合の対処法などについて解説してきました。

前もってリスクや対応策について知っておくことで、いざという時でも焦らずに対応できるでしょう。

ただし、相続放棄に関する手続きは複雑になることが多く、不安や疑問を抱える方も少なくありません。

遺産相続の際に適切な対応をするためにも、法律の専門家である弁護士や司法書士に相談することをおすすめします。

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