故人が所有していた土地や家屋といった不動産は、大切な相続財産です。不動産を故人の名義から相続人の名義に変更する手続きを「相続登記」といいます。
ほとんどの方にとって相続登記は初めての経験であり、手続きの内容はもちろん必要な書類や費用に関することまで多くの不安を抱える方が少なくありません。
本記事では、相続登記でかかる費用の相場をはじめ、自分で手続きをおこなう場合と司法書士に依頼する場合の手続きや費用の違いについて解説します。
相続登記にかかる費用
相続登記は、故人が所有していた不動産を相続人の名義に変更する重要な手続きです。
不動産の所有者に関する情報は法務局の登記簿に記録されていますが、所有者が亡くなった場合は自動的に書き換わるわけではなく、相続人の名義に変更しなければなりません。
相続登記をおこなう際には、書類の取得をはじめとした費用が発生します。
相続登記には必須となる費用のほか、登記をスムーズに進めるために必要な費用もありますので、これから相続登記を控えている方は以下をご確認ください。
- 必要書類の取得費用
- 登録免許税
- 司法書士への依頼費用
上記のうち、必須となるのは必要書類の取得費用と登録免許税の2種類です。
しかし、相続登記は複雑な手続きが必要になるため、専門家である司法書士に依頼しなければスムーズに進めるのは困難です。
そのため、司法書士への依頼費用が発生することが多くなります。
相続登記に必要な書類の取得費用
相続登記には、相続人の戸籍謄本をはじめ被相続人の戸籍謄本や住民票の写しなど、さまざまな書類が必要になります。
まずは下記で必要書類と取得金額をご確認ください。
必要書類 | 1通あたりの取得費用 |
戸籍謄本(戸籍全部事項証明書) | 450円 |
除籍謄本(除籍全部事項証明書) | 750円 |
改製原戸籍謄本 | 750円 |
戸籍の附票の写し | 200~400円 |
住民票の写し | 200~300円 |
印鑑証明書 | 200~300円 |
固定資産評価証明書 | 200~400円 |
上記のとおり、必要書類は1通あたり数百円という少額で取得できます。
ただし、注意しなければいけないのは、必要な証明書が1通で足りるとは限らないという点です。
たとえば、被相続人の戸籍謄本は、出生から死亡まで全てを揃えなければなりません。さらに、相続人の人数分の戸籍謄本が必要になります。
また、相続人が被相続人より前に死亡していた場合は相続人の子供が相続人になる等、相続関係により必要書類が変わってきてしまいます。
戸籍謄本だけでも数十通必要になることも珍しくないため、事前に必要書類をしっかり確認しておきましょう。
登記申請の際にかかる登録免許税
相続に伴って不動産の登記申請をおこなうためには、登録免許税という税金を納める必要があります。
この税金は金額が決まっているわけではなく、相続する不動産の価値に基づいて計算されることが特徴です。
そのため、高付加価値のある不動産を相続する場合は相続登記費用も高額になります。
また、相続人以外への遺贈や特定の非課税条件が関わることで、税額には大きな影響が出てきます。
以下では、登録免許税の計算方法をはじめ、相続人以外への遺贈による税額の変動、および特定の条件下での非課税ケースについて解説します。
登録免許税は固定資産税評価額×0.4%
相続によって不動産の所有権を移転する場合、登録免許税は固定資産税評価額の1000分の4と定められています。
登録免許税に決まった税額があるわけではなく、不動産の価値に応じて変動するため、不動産の価値が高くなればなるほど登録免許税も高額になることが特徴です。
たとえば、相続する不動産の固定資産税評価額が2,000万円だった場合の登録免許税を計算する場合、計算式は以下のようになります。
2,000万円×0.4% = 8万円 |
相続登記の際に必要になる費用は、登録免許税によって大きく変動します。
相続登記を検討する際には、まず不動産の評価額を確認して必要な税額を計算しておくことが重要です。
相続人ではない人に遺贈する場合は、登録免許税は高額になる
被相続人の希望などによって、不動産を相続人以外に遺贈するパターンもあります。
たとえば、相続人の友人や相続人としては認められない遠縁の親族などが挙げられるでしょう。
もちろん、相続人でなくても不動産を遺贈することは可能ですが、登録免許税が通常よりも大幅に高額になることをあらかじめ把握しておく必要があります。
通常の税率が0.4%であるのに対して、相続人以外に遺贈する場合の税率は2%に上昇するのです。
不動産の固定資産税評価額が2,000万円だった場合、登録免許税は以下のようになります。
2,000万円×2% = 40万円 |
上記のとおり、相続人以外に遺贈しようとすると、同じ不動産であっても相続人の5倍もの登録免許税が発生することになります。
相続計画を立てる際にはこの点を考慮し、遺贈の受け手が相続人かどうかを確認することが重要です。
一般的には、不動産を遺贈される人(不動産をもらう人)が登録免許税を支払います。
【令和7年3月31日まで】登録免許税が非課税になるケースを確認
令和7年3月31日までの期間限定で、特定の条件を満たす場合に限り登録免許税が非課税になる可能性があります。
非課税になる条件としては、以下のようなものが挙げられます。
- 土地を取得した相続人が相続登記前に死亡した場合
- 相続登記する土地の評価額が100万円以下の場合
- 評価額100万円以下の土地の表題部所有者が亡くなり、相続人が所有権保存登記をする場合
上記の条件を満たす場合は登録免許税の支払いが免除されるため、相続に伴う費用を削減することが可能です。
ただし、非課税の対象となるのは土地のみで、建物に関しては対象外となることは把握しておきましょう。
この非課税措置は相続登記をおこなううえでのメリットとなるため、該当するかどうかをチェックしておくことをおすすめします。
司法書士への相続登記依頼費用
相続登記は、故人が所有していた不動産を相続人名義に変更するための法的手続きです。
相続登記の手続きは一般人でも可能ですが、法的な知識が必要になるためスムーズに進めるのは簡単ではありません。
そこで有効な選択肢として挙げられるのが、法的な書類作成の専門家である司法書士への依頼です。
専門家への依頼には当然ながら費用がかかり、その額はケースによって異なります。以下では、司法書士への相続登記依頼にかかる費用について、概要と変動要因について解説します。
相続登記の依頼費用は5万~15万円前後
一般的に、司法書士への相続登記にかかる依頼費用の相場は、5万円から15万円前後です。依頼費用には以下のようなものが含まれています。
- 書類の作成費用
- 登記申請の手続き費用
- 必要書類の取得代行費用
- 相談料など
相続する不動産がある地域や案件の複雑さによって費用は変動しますが、ほとんどのケースで5万円~15万円の範囲内に収まります。
決して少額ではありませんが、相続登記の手続きの手間を減らし専門的な知識をもとに効率的に進められることは大きなメリットです。
不動産や相続人の数が多い場合は費用が高額になるケースも
司法書士への相続登記の依頼費用は、相続の対象となる不動産の数や相続人の人数によっては高額になる可能性があります。
複数の不動産が関係する場合や、複数人の相続人それぞれの権利関係を調整する必要がある場合は、手続きが煩雑になるためです。
もし不動産や相続人の人数が多いと考えられる場合は、事前に司法書士に相談して具体的な費用を見積もってもらうようにしましょう。
相続登記以外の手続きも依頼する場合は追加費用が発生
司法書士は法的な文書作成の専門家であり、相続登記にかぎらずさまざまな書類の作成が可能です。
ただし、他の相続関連手続きも依頼する場合は、追加の費用が発生することも忘れてはいけません。
相続の際には相続登記に加えて、遺産分割協議書の作成や相続税申告などもおこなわなければなりません。
相続に関連する手続きを司法書士にトータルで依頼すれば、手続きは確実かつスムーズに進みますが、それぞれのサービスに応じて全体の費用は増加します。
依頼するサービスの範囲を明確にし、事前に費用の見積もりを取ることが望ましいでしょう。
相続登記にかかる費用を概算
相続登記は、不動産の正式な所有者を明確にするための重要な手続きです。
ここでは、以下に挙げる条件をもとに、被相続人である父から不動産を相続するケースにおける相続登記にかかる費用を概算します。
【条件】
- 相続した不動産:土地3,000万円、建物1,500万円
- 被相続人:父
- 相続人:母・自分・弟
※土地・建物は母が全て相続
項目 | 費用 |
父の必要書類
【戸籍謄本、除籍謄本、住民票の除票】 |
戸籍謄本:1通あたり450円
除籍謄本:1通あたり750円 住民票の除票:1通あたり300円程度 |
母の必要書類
【戸籍謄本、住民票、印鑑証明書】 |
戸籍謄本:1通あたり450円
住民票:1通あたり300円程度 印鑑証明書:1通あたり300円程度 |
自分の必要書類
【戸籍謄本、印鑑証明書】 |
戸籍謄本:1通あたり450円程度
印鑑証明書:1通あたり300円程度 |
弟の必要書類
【戸籍謄本、印鑑証明書】 |
戸籍謄本:1通あたり450円程度
印鑑証明書:1通あたり300円程度 |
固定資産税評価証明書 | 1通あたり200円~400円 |
登録免許税 | 4,500万円×0.4%=18万円 |
司法書士依頼費用 | 50,000円~150,000円 |
以上の概算により、相続登記にかかる費用の総額は、書類取得費用・登録免許税・司法書士依頼費用を合わせて25万円~35万円となります。
ただし、これはあくまで概算であり実際の費用は書類の取得状況や不動産の詳細によって変動する可能性があることに注意しましょう。
相続登記は自分でやるのと司法書士に依頼するのとどっちがいい?
相続登記の手続きを自分でおこなうか、専門家である司法書士に依頼するかは、費用と手間の観点から検討する必要があります。
以下では、自分で手続きをおこなう場合と司法書士に依頼する場合のメリットとデメリットについて解説します。
費用だけでみると自分でおこなった方が安く済む
相続登記の手続きを自分でおこなう最大のメリットは、費用を節約できる点です。
自分で手続きをおこなう場合、必要になるのは書類取得費用や登録免許税などの実費のみとなります。
司法書士に依頼する場合は、上記の費用に加えて司法書士への依頼費用が発生するため総額は高くなります。
したがって、費用を最小限に抑えたい場合は自分で手続きをおこなうことが有効です。
費用 | 司法書士に依頼する場合 | 自分でおこなう場合 |
必要書類の取得費用 | 数千円 | 数千円 |
登録免許税 | 数万円
※不動産の評価額による |
数万円
※不動産の評価額による |
司法書士への依頼費用 | 5万円~15万円 | なし |
合計 | 10万~30万円 | ~15万円以内 |
※費用はケースによって異なるため、上記はあくまでも目安です
相続登記を司法書士に依頼すれば、面倒な手続きも任せられる
相続登記の手続きを司法書士に依頼する最大のメリットは、手続きの複雑さや手間を省けることです。具体的なメリットとしては、以下の点が挙げられます。
複雑な手続きを自分でおこなわずに済む
相続登記は複雑な手続きであり、法的な知識や書類作成のスキルが少なからず必要です。
司法書士に依頼することで、複雑な手続きを自分でおこなうことなく専門家に全て任せることができます。
平日に手続きに行かなくてよい
自分で相続登記をおこなう場合、平日に法務局へ足を運ぶ必要があります。
場合によっては仕事などを休む必要もあるでしょう。しかし、司法書士に依頼すれば平日に時間を確保してまで手続きをおこなわずに済みます。
書類収集から任せられる
相続登記に必要な書類の収集は、時間と労力を要する作業です。司法書士に依頼すれば、書類収集から登記申請までの全てを任せることができます。
相続登記の費用を安く抑える3つの方法
相続登記は、大切な財産である不動産を相続人名義に変更する重要な手続きですが、少なからず費用が発生します。
しかし、選択する方法によっては費用を節約することが可能です。以下では、相続登記の費用を抑えるための3つの効果的な方法について解説します。
相続登記を自分でおこなう
相続登記にかかる費用をもっとも節約できる方法が、相続登記の全てを自分でおこなうことです。
自分で手続きをおこなう場合、必要な費用は書類の取得費用や登録免許税などの実費のみとなります。
ただし、法的な知識や手続きの流れを理解する必要があるため、時間と労力がかかることを忘れてはいけません。
自分でおこなうという選択をする場合は、法務局のホームページや関連書籍を参考にし、手続きの流れを事前に把握しておくことが重要です。
一部の手続きは自分でおこなう
全ての手続きを自分でおこなうのは、費用を抑えられるもののリスクも伴います。
そこで、全てではなく一部の手続きだけを自分でおこなうといった柔軟な選択肢もあります。
たとえば、必要な書類の収集や作成は自分でおこない、登記申請のみを司法書士に依頼するといった方法です。
一部の手続きを自分でおこなうことで司法書士への依頼費用を削減できますが、一定の法的知識は必要となります。
複数の司法書士事務所で相見積もりをする
複数の司法書士事務所に相見積もりを依頼することも、費用を抑える効果的な方法です。
異なる事務所で見積もりを取ることで費用の相場を把握し、もっともコストパフォーマンスの高い事務所を選択することができます。
司法書士事務所で見積もりを取る際には、手続きの範囲やサービス内容を明確にしたうえで比較検討しましょう。
相続登記が2024年から義務化!手続き漏れはペナルティあり
2024年4月から、相続登記が法的に義務化されることが決定しました。義務化により、不動産を相続した場合に相続人は3年以内に登記を完了させなければならなくなります。
もしこの義務を怠った場合は、10万円以下の過料が科される可能性があることを覚えておきましょう。
相続登記の義務化は相続人の責任が増えることにはなりますが、不動産の管理という点で重要です。
将来的なトラブルを避けるためにも、相続登記に関する変更について把握し、準備することが求められます。
義務化の背景
相続登記が義務化された背景にあるのは、不動産の所有者情報を正確に保つ必要性がでてきたことです。
これまで相続登記は任意であり、不動産が放置されてしまうケースも少なくありませんでした。登記されていない不動産は、売却や賃貸は困難になってしまいます。
今回の義務化によって、大切な不動産が適切に活用できるようになります。
相続登記の費用に関するよくある質問
相続登記は、不動産の相続において重要な手続きです。しかし、その費用や具体的な手続きに関しては、不明点や悩みを抱えている方も少なくありません。
以下では、相続登記に関するよくある質問に回答します。
相続登記の費用は誰が払う?
相続登記の費用は、原則として不動産を相続する人が負担します。
たとえば、1人の相続人が全ての不動産を相続する場合、その人が全額を負担するのが一般的です。
相続人が複数人で不動産を分割する場合、費用は取得持分により分割して負担するのが一般的です。
相続登記は誰が申請する?
相続登記の申請は、不動産を相続する相続人がおこなうのが基本です。
ただし、手続きは複雑で法的な知識も必要になるため、専門家である司法書士に依頼するという選択肢もあります。司法書士は法的な書類作成の専門家であり、必要書類の準備から登記申請までをトータルサポートしてくれます。
不動産の評価額が高いほど司法書士への依頼費用も高くなる?
不動産の登録免許税は不動産の評価額に合わせて高額になりますが、司法書士への依頼費用は不動産の評価額に必ずしも連動するわけではありません。
司法書士に支払われる報酬は、相続の複雑さ・相続人の数・不動産の数や種類によって変動します。
一般的には5万円から15万円程度が相場ですが、依頼する内容によってはこれを超えることもあります。
相続登記をしないとどうなりますか?
相続登記をおこなわないと、不動産の正式な所有者が不明確になって将来的にさまざまな問題が生じる可能性があります。
問題の例としては、不動産の売却や担保としての利用が困難になることが挙げられるでしょう。
また、2024年4月からは相続登記が法的に義務化され、期限内に登記をおこなわない場合は10万円以下の過料が科されることになります。
さいごに
本記事では、これから相続登記を控えている方に向けて登記にかかる費用の相場や自分で手続きをおこなう場合と司法書士に依頼する場合の違いを解説してきました。
自分で手続きをおこなえば相続登記にかかる費用を大幅に節約できますが、必要な手間や知識を考慮して専門家である司法書士に依頼するのも手段のひとつだと考えましょう。
また、以前は任意だった相続登記が2024年4月から法的に義務化されることも忘れてはいけません。
的確な手続きをおこなうためにも、前もって必要な書類や手続き内容を確認しておくことをおすすめします。