相続登記は故人の不動産を法的に引き継ぐために必要な手続きですが、司法書士や弁護士のような専門家に依頼した場合、高額な費用が発生します。
そのため、自分で手続きをおこなおうとする方は少なくありません。実は、相続登記の手続き自体は専門家ではなくても可能です。
自分で手続きをおこなえば費用は節約できますが、メリットだけではなく大きなデメリットがあることも忘れてはいけません。
本記事では、相続登記の手続きを自分でおこないたい方に向けて、費用や必要書類、法務局での手順などを解説しています。
相続登記は自分でできる?メリットは?
相続登記の手続きをおこなうためには法的な知識や手間が必要ですが、専門家に頼らず自分で手続きをおこなうことも可能です。
自分で手続きをおこなうことで、以下のようなさまざまなメリットが得られます。
費用を節約できる
自分で相続登記をおこなう最大のメリットといえるのは、専門家への報酬を節約できることです。
自分でおこなえば報酬を節約できるため、経済的な負担を軽減できます。
特に、相続財産が多い場合や相続人が複数人いる場合には、専門家への報酬が高額になる可能性があります。
自分で手続きをおこなうことで、これらの費用を大幅に削減することが可能です。
相続財産の理解が深まる
自分で相続登記をおこなうことで、相続財産に関する理解を深めることができます。
手続きを通じて不動産の価値や権利関係、相続に関わる法的な側面などを学ぶことができるため、将来的な不動産管理や遺産分割に役立つ知識が得られるでしょう。
また、相続登記を自分でおこなうことで相続財産の状況を詳細に把握し、将来の資産計画に活かすことができます。
時間を管理しやすい
自分で相続登記をおこなうことには、手続きのスケジュールを自分で管理できるというメリットがあります。
専門家に依頼するとスケジュールに依存することになりますが、自分で手続きをおこなうことで、自分の都合に合わせて手続きを進めることができます。
自分のライフスタイルや仕事のスケジュールに合わせて柔軟に手続きを進めたい方には最適です。
また、自分で手続きをおこなうことで必要な書類の準備や申請のタイミングを自分で決定でき、プロセス全体を自分のペースで進められます。
相続手続きの知識が身につく
自分で相続登記をおこなうことで、相続手続きに深く関与することができます。
これにより、相続財産に対する理解が深まるだけでなく、相続人とのコミュニケーションや遺産分割協議においても重要な役割を果たすことができるでしょう。
自分で手続きをおこなうことで相続の全体的な流れを把握し、相続人間の意思疎通を促進することも可能です。
相続登記を自分でおこなう流れ
相続登記は、故人の不動産を相続人に法的に引き継ぐための重要な手続きです。
自分でおこなうのであれば、正確な手順を理解し、丁寧に進めることが必要不可欠です。
以下では、自分で相続登記をおこなう際の基本的な流れを、ステップごとに解説します。
①必要書類を集める
相続登記の第一歩は、必要な書類を集めることです。
このステップでは被相続人の戸籍謄本や除籍謄本、相続人全員の戸籍謄本、遺産分割協議書、固定資産評価証明書などの書類が必要になります。
これらの書類は、相続人の範囲を確定し、不動産の所有権移転を正確におこなうために必要です。
特に、被相続人の戸籍謄本は出生から死亡までの全ての記録を含む連続したものを集める必要があります。これらの書類は、市区町村の役所などで取得できます。
②相続登記の申請書を作成する
必要書類が揃ったら、次に相続登記の申請書を作成します。
申請書には、相続による所有権移転の内容を明記し、必要に応じて相続関係説明図も添付します。
申請書の作成には法的な知識が必要となるため、慎重におこなう必要があります。
申請書の様式は法務局のウェブサイトからダウンロードできますが、内容を正確に記入するためには不動産登記に関する基本的な知識が必要です。
③法務局で申請手続きをおこなう
申請書が完成したら、不動産の所在地を管轄する法務局に提出します。
なお、申請時には登録免許税の支払いが必要です。登録免許税は、相続する不動産の固定資産評価額に基づいて計算され、申請時に支払う必要があります。
法務局での申請手続きは相続登記の正式なスタートとなり、ここで初めて相続登記が法的に進行します。
④登録識別情報通知を受け取る
法務局での申請手続きが完了すると、登録識別情報通知が発行されます。登録識別情報通知は相続登記が正式に完了したことを示す重要な書類です。
今後の不動産取引などで必要となる可能性があるため大切に保管しておきましょう。
登録識別情報通知には新しい所有者の名前や登記された不動産の詳細が記載されており、不動産の正式な所有者として認められた証明となります。
相続登記を自分でおこなう際の必要書類
相続登記を自分でおこなうのであれば、手続きに必要な書類を正しく把握して不足がないよう準備することが重要です。
相続登記の必要書類の一例は以下のとおりです。
- 被相続人の戸籍謄本
- 相続人全員の戸籍謄本
- 被相続人の住民票の除票
- 不動産を取得する相続人の住民票
- 固定資産評価証明書
- 遺産分割協議書または遺言書
- 登記申請書
必要書類のひとつである戸籍謄本や遺産分割協議書は、相続人間の関係や相続財産の内容によって種類や枚数が異なるケースがあるため注意しましょう。
また、遺言書があるパターンでは、その内容に基づいて適切な手続きをおこなう必要があります。以下では、相続登記に必要になる主な書類について解説します。
被相続人の戸籍謄本
被相続人の出生から死亡まで、生涯を通じた家族関係の変遷を示す書類です。
相続人を特定するために必要で、被相続人の出生から死亡までの全期間の戸籍謄本が必要になります。
相続人全員の戸籍謄本
相続人を確定するために必要な書類です。相続人全員の戸籍謄本を集めることで、誰が法的な相続人であるかを明確にします。
被相続人の住民票の除票
登記簿上の住所と被相続人の死亡時の住所のつながりを証明するために必要な書類です。
固定資産評価証明書
不動産の評価額を証明するための書類です。相続税の計算や登録免許税を算出するために使用され、不動産の価値を正確に把握するために必要です。
遺産分割協議書
相続人間での財産分割に関する合意を示す書類です。被相続人による遺言がなかった場合に使用し、どの相続人がどの財産を受け継ぐかを明記します。
遺言書
被相続人が残した遺言に基づく相続登記をおこなう際に必要になる書類です。自筆証書遺言の場合は、家庭裁判所での検認をおこなわなければなりません。
登記申請書
相続による所有権移転を法務局に申請するための書類です。申請書には、不動産の所在地や面積、相続人の住所や氏名など、登記に必要な情報を正確に記入します。
相続登記を自分でおこなう際にかかる費用
相続登記を自分でおこなうことで費用は大幅に削減できますが、手続きを進めるうえで避けられない費用も存在します。
以下では、自分で相続登記をおこなう際に必要になる費用について解説します。
何のためにどれくらいの金額を用意すべきなのか、事前に把握しておきましょう。
必要書類の取得にかかる費用
相続登記に必要な書類を取得する際には、それぞれの書類に対して手数料がかかります。
主な必要書類と1通あたりの取得費用は以下のとおりです。
必要書類 | 1通あたりの取得費用 |
戸籍謄本(戸籍全部事項証明書) | 450円 |
除籍謄本(除籍全部事項証明書) | 750円 |
改製原戸籍謄本 | 750円 |
戸籍の附票の写し | 300円 |
住民票の写し | 200~400円 |
印鑑証明書 | 200~400円 |
固定資産評価証明書 | 200~400円 |
上記の書類は市役所や区役所で取得でき、1通あたり数百円の手数料で取得できます。
ただし、被相続人の戸籍謄本は出生から死亡までの全期間のものを用意しなければならず、転籍が多い場合はそれだけ多くの戸籍謄本が必要です。
登録免許税
相続登記の申請には、登録免許税が必要です。この税金は不動産の固定資産評価額に基づいて、1000分の4で計算されます。
登録免許税は、固定資産評価額によって変動し、一般的な住宅であれば数万円から数十万円程度になることが一般的です。
たとえば不動産の固定資産評価額が2000万円だった場合、以下のような計算になります。
2000万円×0.4%=8万円 |
登録免許税は法務局での申請時に支払う必要があり、不動産の価値が高いほど登録免許税も高額になっていきます。
被相続人の希望などによって不動産を相続人以外に遺贈する場合は税率が高くなることにも注意が必要です。
相続登記を自分でするデメリット
相続登記を自分でおこなうことで、専門家への報酬を節約できるというメリットが受けられます。
ただし、メリットだけではなくデメリットも存在することを忘れてはいけません。以下では、自分で相続登記をおこなう際の主なデメリットについて解説します。
法務局は平日しか空いていない
法務局は平日のみしか営業しておらず、土日や祝日は閉まっています。
そのため、相続登記の申請や必要書類の取得に法務局に行く際には、平日に時間を確保しなければなりません。
平日に仕事や他の用事がある人にとっては、大きな負担となる可能性があります。
書類の収集や申請書の作成に手間がかかる
相続登記に必要な書類の収集や申請書の作成は、時間と労力がかかる作業です。
戸籍謄本や住民票などの公的書類を複数の役所から集めなければならないうえに、申請書の作成には正確な情報と法的な知識が必要です。
書類の収集や書類の作成といった作業は、特に法律に詳しくない人にとっては難易度が高く、ミスを犯してしまうリスクも伴います。
相続関係が複雑だとトラブルになる可能性がある
多数の相続人がいる場合や遺産分割が未決定の場合など相続関係が複雑なケースでは、必要書類が多くなるだけでなく全ての相続人とコンタクトを取って相続登記を進めなければなりません。
作業量が多いだけでなく難易度も高いため、手続きの過程でトラブルが生じる可能性が高く、自分で相続登記をおこなうのは困難です。
途中まで自分で手続きを進めていても、最終的には専門家の介入が必要になることもあります。
不動産が複数ある場合は申請漏れのリスクがある
被相続人が複数の不動産を所有しているケースでは、相続する全ての不動産に対して適切な相続登記をおこなう必要があります。
自分で手続きを進めるのであれば、登記すべき不動産を漏れなく把握し、それぞれに対して正確な申請をおこなわなければなりません。
さらに、不動産の共有持分や私道、共用部分などの登記漏れが生じやすい項目を見落とすリスクも考慮する必要があります。
登記漏れがあると将来的に不動産の売却や建て替えなどの際にトラブルの原因になることがあります。
相続登記を司法書士に依頼すべきケース
相続登記は、2024年4月からは義務化され、適切な手続きが求められます。
個人での相続登記ではミスが発生するリスクも考えられるため、状況によっては手続きを司法書士に依頼したほうが確実です。
以下では、司法書士に相続登記を依頼すべき具体的なケースを解説します。
平日に法務局へ手続きに行くのが難しい
法務局の開庁時間は平日の日中に限られており、仕事などで忙しい人にとっては相続登記の申請に時間を割くことが難しいケースもあります。
司法書士に依頼することで、平日の日中に時間を確保する必要がなくなります。
相続した不動産について正確に把握していない
相続した不動産の詳細が不明確なケースでも、司法書士に依頼すれば不動産の特定や評価証明書の取得などを代行し、正確な登記が可能です。
不動産の所在地がさまざまな地域に散らばっているケースや、複数の不動産があるケースでも有効です。
相続人が複数いて、書類の収集が困難
相続人が多数いるケースでも、相続登記には全員分の書類を収集しなければなりません。
必要な戸籍謄本や遺産分割協議書の収集を個人でおこなうのは、多大な時間と労力が必要です。
司法書士に依頼することで、書類収集からまとめて代行してもらえます。
相続登記以外の相続手続きも相談したい
相続には登記だけでなく、遺産分割協議書の作成や預貯金の解約払戻手続き、有価証券の名義変更など、多岐にわたる手続きが必要です。
司法書士はこれらの相続手続きも合わせておこなえるため、一括して依頼することで手続きの効率化が図れます。
未登記建物を相続した場合
未登記の建物を相続した場合、建物の登記手続きは特に複雑になり個人での対応は困難になります。
司法書士に依頼すれば、未登記建物を相続したケースであっても登記手続きの専門知識を活かして正確かつ迅速に対応できます。
期限内に確実に相続登記をしたい場合
2024年4月から相続登記が義務化され、相続人は遺産分割が成立した日から3年以内に相続登記をしなければならなくなります。
司法書士に依頼することで、期限内に確実に手続きを完了させることができます。
相続登記を自分でおこなう際によくある質問
相続登記を自分でおこなうことで専門家への報酬を節約できるメリットがありますが、時間と労力がかかること、登記漏れのリスクがあることなど、いくつかのデメリットも考慮する必要があります。
自分で相続登記をおこないたいと考えているものの、不安を抱えている方もいらっしゃるのではないでしょうか。
以下では、自分で相続登記をおこなう際の代表的な疑問点について解説します。
相続登記は法務局のホームページから自分でできますか?
相続登記は、法務局のホームページを通じてオンラインから申請することができます。
しかし、オンライン申請には電子署名や電子証明書が必要となるため、一般の方が自分で相続登記をおこなう場合には窓口申請か郵送申請の方法が一般的です。
オンライン申請は、手続きに慣れている方やオンライン申請に必要なデジタル機器を持っている方に適しています。
相続登記を自分でやる人の割合はどれくらいですか?
相続登記を自分でおこなった方の割合に関する正確な統計はありませんが、専門家である司法書士に依頼することが一般的です。
相続登記は手続きが複雑なだけでなく法的な知識や経験が必要とされるため、自分でおこなうよりも専門家に依頼する方が安心かつ確実です。
また、相続関係が複雑なケースや不動産が複数あるケースなどは、登記漏れのリスクを避けるためにも専門家のサポートを受けることを推奨します。
さいごに
本記事では、相続登記を自分でおこなうメリットやデメリット、手続きの流れなどを解説してきました。
相続登記は、故人の不動産を法的に引き継ぐための重要な手続きです。
専門家に頼らず自分でおこなうことも可能ですが、時間と労力がかかることや登記漏れが生じるリスクがあることなどは考慮する必要があります。
相続人が少なく、手続きも単純であれば個人での手続きでも問題ありませんが、相続関係が複雑なケースや急いで相続登記をおこないたいケースなどは、専門家である司法書士に依頼したほうが安全です。
まずは自分自身が相続する不動産の状況を確認し、適切な方法を選択しましょう。