不動産登記は不動産を相続した際に必須となる手続きですが、個人でおこなうには膨大な時間や労力がかかります。
スムーズに不動産登記を進めるために役立つのが、専門家である司法書士への依頼です。
本記事では、不動産登記を検討中の方に司法書士に手続きを依頼するメリットや登記の流れ、司法書士の選び方などを解説しています。
相続登記は単なる手続きではなく、適切な対応をすることで将来的な相続トラブルを防ぐことにもつながります。
まずは本記事で司法書士への依頼方法について確認し、相続登記にお役立てください。
相続登記は司法書士に依頼すべき4つの理由
相続登記は、故人の不動産を法的に引き継ぐための重要な手続きです。
個人での手続きも可能ですが、法的な知識が必要になるため相続に関する専門家である司法書士への依頼が推奨されています。
以下では、司法書士に相続登記を依頼すべき4つの主要な理由を解説します。
①必要書類の収集から手続きまで任せられる
相続登記をおこなう際には、戸籍謄本や遺産分割協議書など多くの書類を取得しなければなりません。
自分で書類を収集するためには、普段の仕事などと同時に進めなければならないため時間と労力がかかります。
司法書士に依頼する大きなメリットといえるのは、書類収集から登記申請までの一連の手続きを全て任せることができる点です。
手続きの負担を大幅に軽減できるため、時間を有効に活用できます。
②そのほかの相続手続きも依頼できる
司法書士は、相続登記だけでなく以下のような相続に関わる幅広い手続きをサポートできます。
- 遺産分割協議書の作成
- 預貯金の解約払戻手続き
- 有価証券の名義変更
相続に伴う書類の作成や手続きは多岐にわたりますが、司法書士なら一括で依頼することが可能です。
相続に関することを一元化できるため、スムーズに安心して手続きを進められます。
③相続関係が複雑でも漏れなく手続きできる
相続に関わる問題はさまざまですが、相続人の中で代襲相続や数次相続が発生している場合など、個人では対策がわからないケースも少なくありません。
司法書士に依頼すれば、その専門知識を活かして正確に手続きを進めることができます。
相続人の特定はもちろん戸籍謄本の解読など、複雑なケースでも漏れなく対応することができるため、相続登記の正確性が保証され、将来的なトラブルを防ぐことにもつながります。
④土地や不動産が複数あっても漏れなく名義変更できる
相続した土地や不動産が複数あるケースでも、それぞれの登記を正確におこなわなければトラブルにつながるリスクがあります。
司法書士なら、複数の不動産に関する登記も一括して管理し、漏れなく名義変更をおこなうことができます。
個人でおこなった場合、不動産の登記漏れが発生する恐れがありますが、司法書士なら相続に関する法的な問題を未然に防ぐことが可能です。
相続登記は司法書士と税理士どっちに依頼すべき?
相続登記は、不動産の名義変更に特化した手続きであるため、専門家に依頼するなら司法書士が最適です。
なお、税理士は相続税の計算や申告に関する専門家であり、相続登記自体はおこなえません。
それぞれの専門性を活かすのであれば、不動産の名義変更に関しては司法書士に依頼し、相続税に関することは税理士に相談するのが適切です。
相続登記を司法書士に依頼すべきケース
相続登記は法的な知識が必要になるうえに内容が複雑になることが多く、専門家である司法書士に依頼することでさまざまなメリットが得られます。
以下では、司法書士に相続登記を依頼すべき具体的なケースについて解説します。
仕事や家事の関係で平日に時間が取れない場合
相続登記に必要な書類などは平日の日中でなければ取得できないことが多いため、土日しか時間を確保できないケースでは相続登記の手続きは困難になります。
司法書士に依頼することで、書類の収集から登記申請までを代行してもらえるため、日常生活が忙しい方でも相続登記を適切に進められるでしょう。
相続人が多く、不動産の相続に不安がある場合
相続人が多いケースでは、相続に関する合意形成や手続きは複雑になりがちです。
司法書士であれば、相続人全員の意向を考慮しながら適切な遺産分割協議を進めることができます。
また、相続に関する法的なアドバイスもできるため、サポートを受けることで相続の不安を解消できるでしょう。
相続人間の意見の調整や遺産分割協議書の作成などは、個人で対応すると手間がかかるだけでなく大きなストレスになりかねません。
専門家に任せたほうがスムーズかつ正確に手続きを進められます。
土地や不動産の数が多い、またはわからない場合
相続する土地や不動産が多い場合や正確な数が不明な場合、登記の手続きは複雑になり書類作成などに要する時間も比例して増加します。
司法書士に依頼すれば、相続する不動産が多いケースでも以下のような対応が可能です。
- 相続した不動産の調査
- 不動産の評価
- 登記簿謄本の取得
相続する不動産が多いと登記漏れが発生する原因になりがちですが、司法書士なら登記漏れはもちろん相続に関する法的な問題を未然に防ぐことができます。
相続放棄や遺言など、他の相続手続きも相談したい場合
司法書士が対応できる手続きは、相続登記に関することだけではありません。
相続放棄や遺言作成などといった相続に関連する他の手続きについても、司法書士なら専門的なアドバイスを提供できます。
相続が発生すると、さまざまな手続きをおこなわなければならず、思うように時間が取れない状況になることも珍しくありません。
司法書士に任せれば、相続放棄の申述や遺言書の作成、公正証書遺言の作成支援、相続に関する総合的な相談など、幅広いサポートをまとめて受けられます。
相続登記でかかる費用|司法書士報酬や相場
相続登記をおこなう際には、書類の取得をはじめとしたさまざまな費用が発生します。
相続の状況や相続人の人数、司法書士などへの依頼の有無などで金額は大きく変わりますが、基本的には以下のような費用がかかります。
- 登録免許税
- 必要書類の取得費用
- 司法書士報酬
司法書士報酬が発生するのは依頼したときのみですが、登録免許税と必要書類の取得費用は必須です。以下では、それぞれの費用に関して解説します。
登録免許税|固定資産税評価額の0.4%
登録免許税とは、相続する不動産の価値に基づいて発生する税金です。価値の低い不動産を相続した場合は安価で済みますが、付加価値の高い不動産を相続すると登録免許税も高額になります。
登録免許税は固定資産税評価額の1000分の4と定められているため、計算する際には相続する不動産の固定資産税評価額の0.4%と覚えておきましょう。
たとえば、相続する不動産の固定資産税評価額が1000万円だったケースでは以下のように計算します。
1000万円×0.4% = 4万円
なお、被相続人の希望などによって不動産を相続人以外に遺贈するケースでは、0.4%だった税率が2%に跳ね上がるため注意が必要です。
必要書類の取得費用|相続人の人数によって異なる
相続登記の際には相続人の戸籍謄本や被相続人の戸籍謄本など、さまざまな書類を取得しなければなりません。
書類は1通あたり数百円で取得できるものばかりですが、相続人の人数によって必要枚数が増えるため、相続人が多い場合は高額な費用がかかる可能性もあります。
相続登記に必要な書類と取得金額は以下のとおりです。
必要書類 | 1通あたりの取得費用 |
戸籍謄本(戸籍全部事項証明書) | 450円 |
除籍謄本(除籍全部事項証明書) | 750円 |
改製原戸籍謄本 | 750円 |
戸籍の附票の写し | 300円 |
住民票の写し | 200~400円 |
印鑑証明書 | 200~400円 |
固定資産評価証明書 | 200~400円 |
相続人が多い場合などは、戸籍謄本だけでも数十通を取得する必要があるケースも珍しくありません。
どんな書類が何通必要になるのかを確認し、漏れがないように注意しましょう。
司法書士報酬|5万円~15万円が相場
登録免許税や書類の取得費用は必ず発生する費用ですが、司法書士報酬に関しては、自分で相続登記をおこなうのであれば必要ありません。
ただし、手続きには法的な知識が求められるほか手間もかかるため個人でおこなうのは困難です。
司法書士に手続きを依頼することで、費用はかかるものの手続きにかかる時間や手間を大幅に削減できます。
一般的に司法書士への相続登記にかかる依頼費用の相場は5万円から15万円とされており、依頼費用には以下のようなものが含まれます。
- 書類の作成費用
- 登記申請の手続き費用
- 相談料など
確かに費用はかかりますが、手続きにかかる手間や専門家が対応するという安心感を考慮すると決して高額ではありません。
なお、相続する不動産や相続人の人数が多い場合、権利関係の調整が複雑になるため費用が高額になる可能性があります。
相続登記を司法書士に依頼してから完了までの流れ
相続登記は専門家である司法書士に依頼することで、スムーズかつ正確に進めることができます。
以下では、司法書士に相続登記を依頼してから完了までの具体的な流れや登記完了までにかかる日数、相続登記に適したタイミングなどを解説します。
相続登記の具体的な流れ
相続登記の際には、書類の収集に加えて登記申請書の作成など、さまざまな作業が必要になります。
相続登記を司法書士に依頼した際の簡単な流れは以下のとおりです。
- 相続登記の依頼
- 必要書類の収集
- 登記申請書の作成
- 法務局への申請
- 登記完了
それぞれの作業内容について、下記で説明します。
1.相続登記の依頼
相続登記を司法書士に依頼する際には、相続人の情報や不動産の詳細情報を提供します。司法書士は、相続に関する全体的な相談を受けて手続きの方針を決定します。
2.必要書類の収集
依頼を受けた司法書士は、戸籍謄本や遺産分割協議書など、相続登記に必要な書類を収集します。
また、この段階で相続人の確定や相続財産の特定もおこないます。
3.登記申請書の作成
必要書類が揃ったら、司法書士が登記申請書を作成します。
登記申請書に記載するのは、相続による所有権の移転を法務局に申請する内容です。
4.法務局への申請
作成された登記申請書は、不動産の所在地を管轄する法務局に提出されます。
司法書士は法務局への提出まで代行可能です。
5.登記完了
法務局での手続きが完了すると登記は完了となり、登記完了書類が発行されます。
この書類を受け取ることで、相続登記が正式に完了します。
相続登記を依頼してから完了までにかかる日数
相続登記の完了までにかかる日数は、相続の状況や相続人の人数、法務局の混雑状況などによって異なります。
一般的な進め方をした場合にかかる日数は、数週間から2ヶ月程度が目安です。
相続人が多数いるケースや相続する不動産が複数あるケースでは、手続きに時間がかかることが多いため、余裕を持って手続きを進めましょう。
相続登記をおこなうタイミング
相続登記は、従来は義務ではなかったため、期限は特に定められていませんでした。
しかし、2024年4月からは相続登記の申請が義務化され、相続人は遺産分割が成立した日から3年以内に相続登記をしなければならなくなります。
そのため、手続きにかかる時間や手間も考慮したうえで、相続発生後は速やかに手続きを進めることが重要です。
また、できるだけ早いタイミングで登記を進めなければ、不動産の正しい所有者が不明になり、売買や贈与などの取引に支障をきたすリスクもあります。
相続登記を怠ることで将来的に相続トラブルが発生する原因となる恐れもあるため、早めの手続きを心がけましょう。
相続登記を依頼する司法書士の選び方
相続登記は不動産の名義変更に関わる重要な手続きであり、スムーズに進めるためには適切な司法書士に依頼することが重要です。
以下では、依頼する司法書士を選ぶ際に注目すべきポイントを解説します。
ホームページで相続手続きに対応しているか確認
司法書士は基本的に相続登記に対応していますが、債務整理など他の業務をメインにしているケースもあります。
そのため、相続手続きの対応可否を事前に確認しておくことが大切です。
まずは依頼を考えている司法書士事務所のホームページを確認し、相続に関する情報や実績が掲載されているかをチェックしましょう。
相続手続きに特化した司法書士であれば、その分野における専門知識や経験が豊富である可能性が高く、安心して依頼できます。
費用が明確に記載されているか
相続登記にかかる費用は、司法書士によって大きく異なります。
特に説明がないまま依頼して、後から高額な請求が来るリスクもゼロではありません。
司法書士事務所のホームページを確認する際には、費用が明確に記載されているかチェックしましょう。
基本的な費用だけでなく、発生する可能性がある追加費用についても記載されていると、より安心です。
また、費用の内訳や支払い条件なども確認しておきましょう。
複数の司法書士事務所に相談する
自分が相続する不動産に適した司法書士を見つけるために、複数の事務所に相談することも有効な手段です。
複数の司法書士に相談してアドバイスを受けることで、それぞれの専門性や対応を比較し、自分のニーズに合った司法書士を選ぶことができます。
初回の相談が無料である司法書士事務所も多いため、気軽に相談して比較してみましょう。
他の士業と連携している事務所を選ぶ
相続手続きは複雑なトラブルが発生することも多く、司法書士だけでは解決が難しいケースも少なくありません。
そんなときでも、税理士や弁護士などといった他の士業と連携している司法書士を選べば、複雑な相続のケースにも柔軟に対応できます。
相続税の申告が必要な場合には税理士、相続人間での紛争が発生した場合などは弁護士と、状況に合わせて連携をはかれる司法書士を選ぶことで、相続手続きをスムーズに進められるでしょう。
さいごに
不動産の相続登記は、専門的な知識と経験が必要になる手続きです。
個人でも対応は可能ですが、司法書士へ依頼することで複雑な手続きをスムーズに進めることができます。
また、相続に関連する他の手続きも一括して依頼できる点がメリットです。ただし、司法書士によって費用や専門性が異なることも忘れてはいけません。
まずはホームページから相続手続きに対応していることを確認し、費用に関してもチェックしておきましょう。
相続登記をスムーズに進めるために重要なのは、適切な司法書士を選ぶことです。
手続きにかかる時間や手間を削減し、将来的な相続トラブルを防ぐためにも、相続する不動産に合わせた司法書士を選びましょう。